「七夕の夜に」【ショート・ショート6】
織姫と彦星が会える唯一の日。 無垢な想いを短冊に願いを込めて 綴ったのは、遠い昔の話。 「明日になったら燃えるごみとして 処理されてしまうのに無駄なことを」 ウエディングドレスのような白さを 排気ガスのような悪意で汚した...
織姫と彦星が会える唯一の日。 無垢な想いを短冊に願いを込めて 綴ったのは、遠い昔の話。 「明日になったら燃えるごみとして 処理されてしまうのに無駄なことを」 ウエディングドレスのような白さを 排気ガスのような悪意で汚した...
雲一つない青空の下は殺人的に暑い。 日陰のできないグラウンドには 常に太陽の光が当たっている。 まるで舞台上のスポットライトだ。 球場にできたダイヤモンドの中心 小高いマウンドの周りには 陽炎が揺れて、見ているだけで 倒...
6月28日。 僕にとって忘れられない日。 確か去年のこの日は雨が降っていて 僕はびしょ濡れになりながら 涙を流して、睨むように 曇天の空を見上げていたな。 「で、この部屋なんですが……」 スーツ姿で話す男の表情は 何かを...
誰もいない部屋には飲んだ記憶のない ビールの空き缶が何本も転がっている。 仕事を終えてから一人で飲んだ結果 作業着姿のままに眠ってしまったようだ。 窓から遠慮なく入り込む隙間風が 湿った空気を絶えず部屋に取り込んでいる。...
背中が熱い。 噴出する汗が着ていた ワイシャツを濡らし、背中に張り付く。 普段なら気持ち悪さを伴う感覚なのに 今日は少しだけ印象が違う。 体育館の壇上で演奏する バンドを照らす光は明るく 暗闇になっている壇上の下に 設け...
交差点の信号が青になるのを 名前も知らない人達と待っていた。 目の前を過ぎ去る車の多さに 戸惑ったのはずいぶん昔の話で 今では日常になっている。 東京という街に染まっていることを 自覚しそうになった時に 雨の匂いが、嗅覚...