忘れられない【ショート・ショート85】
「雫ちゃん、忘れられない恋ってある?」 送迎帰りの車内で先輩に唐突な質問を投げかけられて、私は返事に困った。何を言っているのだろう、いきなり。本音を隠すように笑みを作って誤魔化そうと試みた。でもうまくいかない。さっきまで...
「雫ちゃん、忘れられない恋ってある?」 送迎帰りの車内で先輩に唐突な質問を投げかけられて、私は返事に困った。何を言っているのだろう、いきなり。本音を隠すように笑みを作って誤魔化そうと試みた。でもうまくいかない。さっきまで...
「ゴメン、待ったよね」 駅の騒がしさに紛れて消えていく謝罪の言葉。でも待ち人は、心配そうな表情から安堵感に変わっていく。その表情の変化を見ていると、申し訳なさが普段よりも重くなっていくのを感じる。「仕事でしょ? 美加がや...
「悪い、待たせたな」 顔を赤らめた寿也は開口一番、僕に詫びるように手刀を作りながら言う。その姿は、学生代によく見た姿だった。 「気にすることじゃない」 周囲を見渡せば、着飾った服装をした老若男女で溢れている。クローク...
星が遠い。 情けないほど陳腐な感想を抱く自分に嫌気が差すけれど、久し振りに見上げた空が遠く感じたのは、まぎれもない事実であり、東京で生活しているのだと自覚的になった。色々なことに溢れ、下を向くことばかり日常が般化してい...
有線放送から流れる聞き覚えのあるナンバーで、我に返った。机に置いたスマホを手に取り、時刻を確認する。深夜十二時半。サヤカが部屋を出てから十分も経っていなかった。座り心地の良い自分には分不相応なソファーに腰かけながら、ぼ...