昼下がりの逃避行【ショート・ショート80】
聡との関係が本当の意味で始まったのは、トーテムポールの腰巾着こと藤村教諭の下手くそな朗読を聞いていた五限目のことだ。退屈のあまり居眠りを試みるも身体にまとわりつく蒸し暑さのせいで、なかなか眠ることができなかった。 午前...
聡との関係が本当の意味で始まったのは、トーテムポールの腰巾着こと藤村教諭の下手くそな朗読を聞いていた五限目のことだ。退屈のあまり居眠りを試みるも身体にまとわりつく蒸し暑さのせいで、なかなか眠ることができなかった。 午前...
2020年もあと僅か。 世間が東京オリンピックに染まって、街を歩けば例年以上に外国人とすれ違う。メダルの数に一喜一憂して、スターが生まれるはずの一年だった。でも気付けば、全世界が別の、得体のしれないウィルスと戦う羽目に...
子供からの脱皮、そして大人への変態が求められる次なる空間の記憶はやけに鮮明に覚えている。身体の各所に変化が現れ、心が揺れ始める思春期の始まりに足を踏み込みながら、漠然とした形無き社会という化け物に取り込まれる準備及び、...
キッチンから聞こえる『Bitter Sweet Samba』のメロディが、夢の世界から現実の朝へと戻した。楓はもう起きているようだ。ベッドの上で眠気眼を擦りながら、今朝の出来事を思い出す。楓に甘えてしまったことに恥ずか...
「ねぇ、今度京都行こうよ」 夕食で使った食器をキッチンに持っていくタイミングで楓は呟くように言った。今日は僕が当番なのにと思ったけど、そのことには触れずに「いいね、京都」と答えるボクはきっと幸せ者だ。「本当に? じゃあ、...
久々に歩く新宿周辺の夜の散歩は、気付けば二時間も経過していた。目的地を敢えて迂回して彷徨っているうちに疲れてしまった。大学生の頃は悩んでいることがあると、頭を冷やすために最寄りだった中野駅から東京駅まで夜通し歩いたこと...
キーボードを叩く音が狭い部屋の中に響く。多くの人が寝静まる丑三つ時、オフィス街の一角で眠りを忘れた愚か者は、社会に取り残されたように画面と向き合う。朝と夜の概念を忘れて生きるなんて、思えば大学生以来だ。 酒とタバコを...
同じ道を歩いている。いつもそうだ。オレは変われないのか? 弱々しく呟いても、声はすぐに消える。だから、いつも同じ姿がくっきりと脳裏に浮かんでしまう。反射的に目を瞑ってしまう。でも結果はいつも同じ、視界が奪われて真っ暗に...