きっと貴女は遠くで泣いているから【ショート・ショート56】
当たり前が当たり前じゃ無くなった。失って気付く幸せなんて、よく分からなかったけれど、突然目の前に現れると大きさに自覚的になってしまう。僕はきっと傲慢で、無頓着だ。「今年の花火大会、中止らしいよ」 電話口で彼女は寂しそう...
当たり前が当たり前じゃ無くなった。失って気付く幸せなんて、よく分からなかったけれど、突然目の前に現れると大きさに自覚的になってしまう。僕はきっと傲慢で、無頓着だ。「今年の花火大会、中止らしいよ」 電話口で彼女は寂しそう...
スケジュール帳を見ていると、自然とため息がこぼれてしまった。「こんなに予定があっても楽しくない」 自然と呟いたのは、本音が理性を越えてしまった証拠だろうか。大学を卒業して五年。もう27歳。描いていた社会人ライフは縁遠...
味の抜けたビールを飲みながら、くたびれた表情を浮かべる旧友の愚痴に耳を傾けていた。高校卒業をして十二年。青春時代の前半戦を共に生きた仲間は、それぞれ違う生活を営み、そして変わっていた。 グループのリーダー的な存在だった...
世界一美しい風景は キャッチャーマスクから 見えるグランウンドであることを 16歳の夏、僕は知った。 あれから十数年の月日が流れても あの時抱いた感動を覆す 風景に出会っていない。 おかしな話だなとは思う。 感情が乏しい...
タバコが無くなって随伴反射のように外出の準備をした日曜の朝。街は休日を訴えるように静かさと独特の高揚感を混ぜ合わせた空気が漂っていた。この空気、僕は正直苦手だ。なんだか、お前の居場所はどこにある? と問いかけられている...
「久し振りだな」 右手を申し訳ない程度に挙げて、彼は微笑んだ。会っていなかった空白の時間なんてものは存在しなかったのではないかと疑ってしまうくらいにフランクで、それこそ昨日一緒に居たかと思わせるほど普遍的な彼の姿に僕は...