まっすぐに純粋に【ショート・ショート36】
アスファルトに陽炎が出来ている。夏らしい風景ではあるが、連日のように続くと嫌気が差す。だからと言って梅雨のように雨が降り続けたとしたら、それはそれで暑さと同じように嫌気が差す。人間という生物はない物ねだりだ。そんなこと...
アスファルトに陽炎が出来ている。夏らしい風景ではあるが、連日のように続くと嫌気が差す。だからと言って梅雨のように雨が降り続けたとしたら、それはそれで暑さと同じように嫌気が差す。人間という生物はない物ねだりだ。そんなこと...
「だから今回の企画だと、演者が乗り気にならないんだ」 深夜未明のファミレスには相応しくない五十嵐の怒気の入った声が聴覚を刺激した。夜の過ごし方に迷う数少ない客の視線が、一同に僕達の座る席へと集まる。 「それを仕切るのが...
教室の視線は、前方で演説のように語る教授に向いている。経営についての知識がない下級生にも伝わる分かりやすい説明は、基礎を取り損ねた身としては復習の役割を果たしていた。けれど二回目の講義を真面目に聞くほど優秀じゃない僕は...
12時の鐘が鳴る。工場に流れていた機械音が、徐々に小さくなっていく。何人かの作業員は、汚れた軍手を外して出口に向かって歩き始めている。目の前のベルトコンベアは完全に停止して、長かったような短かったような午前中の業務が終...
本の香りが嗅覚を刺激する。綺麗に陳列された本の背表紙が視覚を刺激する。お客さんが捲るページの音が聴覚を刺激する。そしてこの場所は、僕にとってのディズニーランドだと改めて自覚する。本の入れ替えは、そのことをハッキリと感じ...
LINEの通知音が鳴り、僕は条件反射でスマホに手を伸ばした。 携帯電話を高校生から持つようになってから、着信音にはひどく敏感で、その悪習は今でも健在だ。 スマホを操作して画面を確認する。文章の代わりに届いていた人気...
部屋の掃除も中盤になって手が止まった。部屋に差し込む日差しは眩しくて、外にでも出たいという欲求が溢れ出そうになったけれど、外出自粛という紋所をチラつかせて、我慢した結果だったのかも知れない。クローゼットの奥に閉まった高...
キーンコーン、カーンコーン。 聞き慣れたチャイムが、スピーカーを通して狭い教室内に鳴り響く。 三上教諭が教室を出ると同時に、僕は机に掛けたカバンを持って、ダッシュで校舎を移動する。週二回のルーチンが染みついた身体は...