月別: 2018年7月
「雨に濡れる窓、貴方の背中」【ショート・ショート10」
35度を超える猛暑日が 昨日まで続いていた。 唸るような暑さに心身ともに ダメージを負っていたからか 久し振りの雨は少し嬉しかった。 でもそういう日に限って営業で外回り。 お気に入りのパンプスはびしょ濡れで ボーナスを奮...
「特別な日の一部分」【ショート・ショート9】
都心の雰囲気が嫌いだった。 全方位、ビルで囲まれている圧迫感と 統一感があるような雰囲気を漂わせておきながら 様々な国を取り上げた飲食店の集合体には 雑多な空気感で覆われていて居心地が悪い。 「相変わらず迷路だな」 久し...
「忘れていた昔の恋」【ショート・ショート8】
「そういえば、あの子結婚して 子供生まれたらしいぞ」 悪戯な笑みを浮かべて 彼は自分のスマートフォンを 水戸黄門よろしくな勢いで 僕の目の前に向けた。 画面には見覚えのない子供の 写真が映し出されている。 「似てねぇな」...
「ある夜の話」【ショート・ショート7】
一人の夜は静かであって欲しかった。 まるで世界の人々が消えてしまい 取り残されたかのような感覚を 想像することで感情を抑え込む理性。 それは使い込んだ孤独論理の末路と 言ってもよいのだろうか。 だが思いとは裏腹に時計の針...
「七夕の夜に」【ショート・ショート6】
織姫と彦星が会える唯一の日。 無垢な想いを短冊に願いを込めて 綴ったのは、遠い昔の話。 「明日になったら燃えるごみとして 処理されてしまうのに無駄なことを」 ウエディングドレスのような白さを 排気ガスのような悪意で汚した...
「最後の夏」【ショート・ショート5】
雲一つない青空の下は殺人的に暑い。 日陰のできないグラウンドには 常に太陽の光が当たっている。 まるで舞台上のスポットライトだ。 球場にできたダイヤモンドの中心 小高いマウンドの周りには 陽炎が揺れて、見ているだけで 倒...