「遅く起きたら」【ショート・ショート3】

誰もいない部屋には飲んだ記憶のない
ビールの空き缶が何本も転がっている。
仕事を終えてから一人で飲んだ結果
作業着姿のままに眠ってしまったようだ。
窓から遠慮なく入り込む隙間風が
湿った空気を絶えず部屋に取り込んでいる。
重たい瞼をこすりながら
壁に掛けている時計を見つめる。
時刻は、十二時を過ぎていた。
まだ、アルコールは抜けておらず
頭はぼんやりとしている。
明け方まで働いても夕方まで
寝られるような都合のよい
体内時計ではないからこそ
規則正しく寝不足に陥る。
酔いと眠気を覚ますために
気合で身体を起こし
台所まで向かい、蛇口をひねる。
勢いよく水が柱を作り
シンクにぶつかり、拡散している。
一、二、と呟きながら
頭を柱へと侵入させた。
冷たさが全身に刺激を与え
腕には鳥肌が立っているのを感じた。
数秒の間だけでも滝行しているような
感覚で少しずつ覚醒していく意識。
冷蔵庫にぶら下げたタオルで
頭を拭きながら起きた場所に戻り
パソコンの電源を入れ起動させる。
タバコに火を付けて
息を吐き出す頃には
見慣れたディスプレイが現れ
二つのアイコンが表示される。
迷わず右側の観覧車の
写真をクリックし、パスワードを打ち込む。
一番のお気に入りの写真が出迎え
散りばめられたアイコンが目に入る。
インターネットのeをもじった
アイコンをクリックして
何もつながりのない日々に抗うように
回線を通じた世界へと繋げていく。
今日は、久し振りに連絡を寄越した
友人と飲みに行くことになっている。
シンプルな検索バーに指定された店を
打ち込み、検索する。
決められたプログラムは
瞬時に店のHPを一番上に据えて表示させる。
地図を頭に入れて、タバコを吸った。
ラッキーストライクの毒々しい味が
嫌悪感に変換されていく。
いつもこの時だけは
タバコを止めようと思うけれども
決して実現することはなかった。
誰かと飲む機会なんて
久し振りだったから
なんだかワクワクしていた。
それに気が付けば
疎遠になってしまった友人たちと
席を囲んで、話せることは
孤独の味に慣れてつつあった
現実に差し込む一筋の光に思えた。

文責 朝比奈ケイスケ

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