ハイライト 26
「やっぱり、時期尚早だったんじゃないかなぁ」 往生際の悪い僕は、隣に座り、講義を聞きながらレジメに言葉をメモしていた誠治にだけ聞こえるくらいの声量で呟いた。翔平は、僕の前の席で結局眠っている。無理もな […]
「やっぱり、時期尚早だったんじゃないかなぁ」 往生際の悪い僕は、隣に座り、講義を聞きながらレジメに言葉をメモしていた誠治にだけ聞こえるくらいの声量で呟いた。翔平は、僕の前の席で結局眠っている。無理もな […]
夏の暑さを引きずったまま、秋になった。子供の頃は紅葉を写真に収めていた時期も今は温暖化のせいで夏の延長戦みたい印象を抱く。紅葉なんて見る方が珍しくて、生温い風に当たっていると、近い将来には秋という季節 […]
「ここ、禁煙」 タイミングよく誠治が帰ってきた。もはや狙っているのかと勘ぐってしまうくらいにタイミングがよかった。 「沈黙に耐えられなくて。まぁ誰も見てないからいいだろ?」 誠治が差し出した缶コー […]
テレビで終戦特集が組まれている夜、美沙に呼び出された。僕は終戦の時期に恒例の終戦ドラマを見ている時だった。電話をしながら、部屋の中に立て掛けているロードバイクのフレームに手を掛けていた。 美沙の呼び […]
「海だぁー!」 翔平は大声――まるで声出しをする高校球児のような声――を海に向けて叫んでから、一目散に砂浜を走り出した。誠治たちも翔平につられるように走り出した。 砂浜は柔らかく足を取られる。空は憎 […]
湘南にあるキャンプ場は海から近く、潮の香りや時より吹き抜ける海風が印象的だった。べたつくような風に当たりながら、石で造られたバーベキューコンロの上に置かれた網に肉や野菜を焼く為の火を起こしていた。今か […]
「コバルトブルーの……」 翔平がサザンオールスターズの『涙の海で抱かれたい』を熱唱し始めた頃、車は国道百三十四号線を進んでいた。無限に広がるような青い海に翔平たちは歓喜していたが、僕はワゴン車の三列 […]
「やっと、やる気になったか?」 カウンター席で僕の横に座るマスターは、日本酒のお猪口を口に運んだ後に満足そうな笑みをこぼして言った。 「はい。まだ何にも決まってませんけどね」 僕はジョッキに入った […]
梅雨が明けた。夏らしい晴れ渡った青空が広がる日々が続いている。猛暑日続きで、身体が悲鳴を上げ始めていたが僕の日常は変わりなかった。 午前中に受けた企業面接を終えた僕は、木々が夏の眩しい日差しを僅かに遮 […]
「あの写真、いい写真だな」 誠治の声で僕は鮮やかな思い出から現実に戻った。 「僕もそう思う」 そう言ってから、壁にぶら下げてあるコルクボードを眺めた。そこには誠治たちとの飲み会や大学での日常を切り […]